パーシャルデンチャーの支台装置を考えた場合、第一選択はクラスプであり、1歯欠損から1歯残存まで適応できる。しかし、対合関係や欠損形態によってはクラスプでは長期的な安定を図ることが困難な場合や審美的な要求からクラスプを使用できない場合がある。この場合、オーバーデンチャーやアタッチメント、ノンメタルクラスプデンチャーといったクラスプを使わない義歯を選択しそれぞれの要求に対応している。 そこで、今回はクラスプを使わない義歯について解説していこうと思う。
クラスプを使わない義歯を理解する上で、まずクラスプの役割をもう一度確認する必要がある。その主たる役割は義歯の動きを抑えることである。第2回で触れたように動かない義歯を実現するためには「支持」、「把持」、「維持」の設計原則に従っておりクラスプもこれらの要件を具備している。エーカースのクラスプを例にとってこれらの原則と照らし合わせてみると、支持はレスト、把持は鉤腕のアンダーカットに入っていない部分、維持は鉤腕のアンダーカットに入っている部分である(図1)。クラスプを使わない義歯を選択する際には、クラスプのどの機能が不十分であるかを理解し、その機能を補うような支台装置を適切に選択しなければならない。
![]() |
図1 クラスプの役割 |
対合関係や欠損形態によってクラスプが使用できない場合(機能的な理由でクラスプが使用できない場合)
欠損が大きくなり前歯のみが残存している場合や、いわゆるすれ違い咬合になった場合などはクラスプデンチャーでは長期の安定を保つのが困難なことが多い。これはクラスプの把持のみでは義歯の動きを抑えることが困難なため義歯が動揺し、顎堤の吸収や支台歯の負担過重が起こってしまう。そのため通常のクラスプデンチャーではなくオーバーデンチャーを選択し、クラスプより強固な把持が得られる支台装置、あるいは支台歯にとって負担を軽減するような支台装置を選択することになる。前者はクラスプより強固なリジッドサポートの義歯(図2)、後者は残存歯を根面キャップにすることにより歯冠歯根比を改善し粘膜支持を中心とした義歯(図3)である。オーバーデンチャーにすることのメリットは、術者が自由に咬合高径やガイドを設定することが可能になる。また、少数歯残存において多くの場合起きている歯の移動により人工歯排列への影響も排除することが可能となる。しかし、前歯部残存の場合などは義歯を外した際に歯冠がなくなるため患者がそれを受け入れない場合があるので治療計画の際にそのメリットとデメリットについて十分な説明が必要である。
![]() |
![]() |
|
図2 上顎にコーヌステレスコープを選択した症例 |
図3 下顎に根面キャップ(OPA)を選択した症例 |
審美的な理由でクラスプを使用できない場合
審美的な理由が問題となるのは主に前歯、小臼歯部のクラスプであることが多い。比較的少数歯欠損の場合には頬側、唇側のクラスプをどのように処理するかが問題となってくる。この場合、頬側のクラスプ以外のレスト、舌側の鉤腕はそのまま利用できるので、主たる支持と把持は影響が少ない。そのため維持をどのように対処するかを考えればよい。ひとつの解決方法としてはアタッチメントの使用である(図4)。歯冠外アタッチメントは支台歯に対して歯冠補綴を行わなければならず、また技工操作も煩雑でありコストも高価である。そのため現在では使用される頻度は少なくなっている。
![]() |
図4 歯冠外アタッチメント(mini-Dalbo)を用いた義歯 |
近年、ノンメタルクラスプデンチャーが認知され審美的な要求に対して有効な選択肢となっている。しかし、その使用方法についてはまだ問題点も多く、さらなる検討がなされている。筆者の考えるノンメタルクラスプデンチャーは、あくまでパーシャルデンチャーの設計原則に則り審美的な要求のある部分のみに使用するものである(図5)。
![]() |
![]() |
|
図5 メタルフレームを併用したノンメタルクラスプデンチャー |
||
最後に
超高齢化社会になった今、全身的、経済的な理由でインプラントができない患者が沢山おり、「良い」義歯の需要は決して少なくない。
このコラムでは限られたスペースの中で自分なりにパーシャルデンチャーについて解説したつもりである。言葉が足りないことも多々あり理解しづらい点についてはご容赦いただきたい。
パーシャルデンチャーは歯科医師のみ、歯科技工士のみでは良いものは作れないと思っている。実際に義歯を作っているのは歯科技工士であるがその義歯に命を吹き込むのは歯科医師である。やはり患者の口腔内の情報を知っている歯科医師が自ら設計し、その意図が伝わるように歯科技工士に製作を依頼すべきである。歯科医師は適合の良くない義歯、セットの際に調整の多い義歯について依頼した歯科技工士に鉾先を向けることが多いが、ここで自分がやるべきことやっているかどうか冷静に自分に目を向けてみてはどうだろうか?そして歯科技工士は義歯という商品を作るのではなく人工臓器としての義歯を作っているということを再認識してはどうだろうか?両者がそれぞれ高い意識をもって義歯を製作すれば自ずと患者の笑顔が生まれると思う。